〜2003年 新春経済講演会より〜

(株)三井物産戦略研究所 所長 寺島実郎氏 による
『気になる国際情勢と世界秩序 〜危機の本質と日本再生戦略』
とのテーマの「新春経済講演会」が1月7日に開催されました。
( 場所:ベルアンジュ上尾)

 

 ◆日本経済の認識    

 2001年9月11日の事件後、アメリカ経済は失速し、世界経済に大きな影響を与えた。
しかし、2002年には日本を除くアジアが回復し、今年、アメリカ、EUも昨年に比べ堅調な経済が予測されている。
 日本には残念ながらその気配が無く、世界経済の中で日本だけが取り残されているという問題意識を持ってもらいたい。

 ◆高齢化というキーワード 

 戦後の50年で人口が5000万人増えた。どんなビジネスに携わってきた人でも、人口が右肩上がりに増えるということを前提としたビジネスであった。
 ところがあと3年で日本の人口はピークに達し、2006年から毎年60万人平均で人口が減り、2050年には一億人を割ると言われている中で、人口構造も急変すると言うことを認識すべきである。
 65歳以上の方の人口に占める割合は現在18%であるが、少子化傾向が続けば2025年には約30%、一億人を割る頃には40%に迫ると言われ、人口構造の急激な成熟化ということが、日本社会に大きなインパクトを与えることになるだろう。
 医療や介護の他、時間を楽しんだり、安心・安全に関わるようなビジネスモデルが重要となってくる。

 ◆中国という問題意識 

 全国どこへ行っても空洞化という事を聞く。中国へ中国へと吸い込まれていく現象で、欧州、アメリカ、日本等のメーカーが怒涛のごとく進出している。
 中国は今、人口12億人で日本の10倍いる。一人っ子政策を採っているが、日本が一億人を割るとされている2050年には17億人に到達する見通しであり、人口パワーの違いがある。このパワーに良い意味でも悪い意味でも付き合わされるであろう。

 ◆これからどうしたらよいか

 日本は自動車をはじめとする輸出の上位10品目で70%を支えている。先人達がモノ造りということにこだわり、国際競争力のある産業を育ててきたからである。
 しかし、国際競争の厳しさを知っているトップ品目の分野こそ特に中国を中心とした海外に生産立地し、空洞化を加速している。
 このままでは日本は自動車までの産業国家だったで終わってしまう。
 そこで新しい産業の創出が重要な課題になるが、必ずIT、バイオ、ナノとか言う話が出る。しかしどういうビジネスモデルに繋がるか今一つピンとこない。

 例えば、一つの提案として、150人乗り以下のジェット旅客機の生産に拘ったらどうかということである。
 日本が戦後蓄積してきた生産技術と資金力、ポテンシャルのある中小企業、人材の質も高い。
 ジェット機は、IT、バイオ、ナノの塊であり、こういうプロジェクトを立ち上げると、空港基盤の整備も必要になるなど、その裾野に多くの中小企業が携わることになるだろう。

 ◆知恵は無限である

 経済人が議論しなければならないことは、100倍の情熱を傾け、どういう産業をこの国に起こしていくのか話をすることである。
 金融は産業を育てる触媒である。それがみんな株価と不良債権の話ばかりしていることに気がつかないといけない。
 日本は個別の要素を点検すると世界一流のものを持っている。何が欠けているかというと、総合戦略の企画力がない。
 今、世界は新しい産業を生み出そうと熾烈な知恵比べをしている。
 この時期に日本人だけが、”痛みに耐えて”なんて言っていられない。
 不良債権処理が済めばこの国が良くなるという経済観しか持っていないところに途方もない暗闇がある。
 経済の現場にいる人間は、もっともっと産業の議論をしよう。

 

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